【印刷LAB】クラック(ヒビ割れ)インクで刷る。
ミナさんは「ヴィンテージ」は好きですか?
僕は好きです。(知らんがな)
ヴィンテージと呼ばれるものも元々は全て新品でしたが、幾年の年月が経って”アノ”風合いになっています。僕たちが刷るモノは大抵が新品として販売される製品です。でも、それらもいずれかは「ヴィンテージ」となって再評価を受ける日が来ることでしょう。ただ、最初は全て新品です。要するに、ピシッとした仕上がりなのです。
それはそれで良い。
でも最初からヴィンテージ感漂う、ウォーンアウト臭プンプンの「ソレ」っぽくしたいんじゃ!という人もチラホラおられます。
今日はそんな方への記事になるかと思います。
クラック(ヒビ割れ)とは。
古くからシルクスクリーン印刷というのは愛されてきたもので、当時から色々な方面のアパレルプリントにおいて油性ラバーインクというのは多用されてきました。分厚くてベタッとしたインクのノリ方。あの重厚感はシルクスクリーン特有の迫力です。
特に分厚くて野暮ったいプリントは、ユニバーシティ オブ ナントカ みたいな、カレッジやスクール・スポーツもの、総じてアメカジのプリント古着によく見られますよね。そこで、それらのヴィンテージアイテムに共通して思うことは、「すごく綺麗なプリント」がキープされたものはあるだろうか?というところ。
僕の経験上は「ない」です。
当時はピシッとした印刷だったのでしょう。でも店に陳列されているどれを見ても、何かしらのダメージが付随しているはず。その中でもよく散見できるものが「クラック」です。言葉通りですが、「亀裂」「ヒビ割れ」を意味するものですね。長い年月の中で、沢山着ては洗われての繰り返し。その中で受けてきた摩擦などの影響で起こるプリントの劣化によってプリント面にヒビが入ったり、剥がれ落ちたりしてくるんですね。それが「ヴィンテージ感」としてより味わいを感じれるワケです。
新品からあの状態までは、短期間でそう簡単には持って行くことは出来ません。デニムも然り、長い年月とあらゆる服へのダメージが必要なんです。
クラックインクというもの
wanna studio が通常使っているインクは「油性ラバーインク」です。これもヴィンテージウェアが作られた当時のものと同様です。なので我々が刷ったものをずーっと着続けていけばヴィンテージライクなヒビ割れはいずれ起こります。
ただ、作る / 買う 時は新品です。
でも、最初からクラックをさせてあげることもできるのです。
それのためには言わずもがな「クラックインク」です。
高温でしっかりと熱処理をしたクラック専用のインクのプリント面を人為的に引っ張る / 揉むことで、初めからクラックを入れることができます。しかも割り方 / クラック具合はお好みの具合に調整可能です。
では実際に刷ってみましょう。
実際に刷ってみる。
クラックインクを刷る際において必要不可欠なことの1つはプリント層の厚み。薄くても割れることは割れるのですが、油性インクの野暮ったい分厚さ/硬さを再現しにくいためです。なので厚膜製版したスクリーンを用いる or 重ね刷りを施してプリントを厚めにしっかりとプリントします。

我らの標語「QUALITY CONTROL」のカレッジデザイン。ボディカラーのブラックを覆い隠すようなしっかりとしたホワイトカラーの発色が出ています。
この写真で見る状態が通常の油性ラバーの完成形と同じです。ただ、実際は高温でベーキングをしたことで、インクの中に含まれた水分が飛んでいるので、かなりパリパリとした硬い質感になっています。
さて、クラックインクの醍醐味(重労働)はここからで、これを手作業で「割る」作業に入ります。


割れました。(ニッコリ)

好きな場所と方向に、好みの仕上がりになるまで続けます。軽いクラックの感じがコチラです。


全体的にライトなクラック感。これだけでも通常のラバーインクとは雰囲気が変わっているように感じますよね。縦方向と横方向のクラックはバランス感も大切で、いかに自然にできた様に再現できるかは割る人のセンスに依存します。
これで終了でも良いんですが、よりハードにウォーンアウトした仕上がりをしたい場合はまだまだ割り続けます。ただ、摘んで引っ張るだけではシンプルな亀裂が入るだけなので、よりハードな仕上がりにしたい場合は、揉み込むことで強烈な摩擦が生まれて、よりヴィンテージ感のある割れ方になります。

ランダムな亀裂だけではなく部分的にポロリと剥がれ落ちる箇所が出てきて、これがまた味わい深さマシマシの要因になってきます。

プリントの剥がれが相当際立ってかなり良い仕上がりになりました。剥がれ落ちた箇所には、しっかりとインクがあった形跡が残ってる感じも使い古された空気感を演出してくれています。
クラックインクで発注する際の留意点
堅牢性
インパクトの大きいのクラックインクですが、クラックインクは通常の油性ラバーと比べて、摩擦や洗濯に対する堅牢性が低くなってしまいます。(強く揉み込むことで部分的に剥がれ落ちることを踏まえれば妥当ですが。)
全てがベロンと剥がれ落ちることはないですが、着る人の扱い方にも左右されるところが強いです。ウォーンアウトされた雰囲気が好きなら、そこまで気にしすぎることはないかとは思いますが、なるべく現状を維持したい場合は、洗濯の際は裏返すなど、通常のプリントモノより丁寧に扱っていただいた方が良いです。
インクカラーの選定
クラックインクはどの色でも印刷することが可能で、今回製作したデザインサンプルは濃色生地に淡色インクで、亀裂やヒビの視認性が高いです。ただ、淡色生地に濃色インク(ボディカラーより濃い色のインク)の場合、クラック具合の弱い部分は割れているけど視認性が弱くなる傾向があるので、そういったインクの選定をされる場合は、強めに割る方が良いかと思います。そもそもはボディカラーより薄いインクをお勧めはしています。

上記写真のように、実際にはクラックは存在するけれど、インクカラーの方が強いため隙間から地の色を感じにくく、クラックの視認性が弱い箇所がある。
割り作業の有無
今回ご紹介したプリント後の割り作業は基本的には弊社にて加工させていただきます。クラック具合は事前の打ち合わせにてお伺い致しますが、あくまで「お任せ」になるので完全な指定は不可です。また、必ず個体差が発生する手法となりますのでご了承ください。
「依頼者様自身で割りたい」「購入するお客さんに割ってもらう商品にしたい」などがありましたら、割る作業をしないまま納品することも可能になります。詳しくはご依頼の際にお申し付けください。
今回はこれぐらいで。
プリントのご依頼や、この印刷方法について気になる方は是非お問い合わせください。