【印刷LAB】シルクスクリーンで「モノクロ」をどう表現するか
今回ご紹介するのは「モノクロ写真」についてです。
シルクスクリーン工場として、モノクロ写真(正確にいうと、ハーフトーン版を必要とするモノクロームのデザイン)というものを見る機会が多いです。なぜかと言いますと、基本的にシルクスクリーンでモノを作る際は、色数が多くなるにつれて製作コストも比例して大きくなります。なので、コストを抑えるためにもデザインを「モノクロ」に変換して製作依頼をいただくことが多いです。
(もちろんコスト云々ではなく、もともとモノクロの方が良い場合はもありますが。)
モノクロというのは非常に奥が深い。通常、フルカラーで見える世界を「白」と「黒」だけで描写する必要があるので、その明暗やコントラストというのは重要視されがちですよね。コストも大事だけど、仕上がりも捨てがたい・・・。
今回はそんなモノクロ写真をシルクスクリーンで刷る場合、ケースバイケースでこんなやり方がありますよ。という記事になります。
モノクロ写真を1色で表現する
フルカラーのデザインを表現するには、デザインの中に含まれる色を抽出して分解、そして色ごとに製版→プリントする必要があります。要はカラフルなデザインほど、その手間とコストがかかってしまうんですね。
一方で、先述したようにモノクロ写真は、「白」と「黒」だけで表現されるもの。その場合は、基本的に1色(K100%)だけで表現することが可能です。写真上の「黒」の部分だけをハーフトーン化することで、そのハーフトーンの密度によって写真の中に含まれる濃淡表現が可能になるからです。
具体的にいきましょう。
今回用意した写真がコチラ。

LIFE MAGAZINE / 1967
コチラを1色(=1版)で刷ってみましょう。

こうなります。
元写真の黒色部分だけがプリントされている形でフォトプリントとしては非常にシンプルでいいですよね。
この場合のデメリットを挙げるとすれば、「白ボディにおいてのみ、この状態になる」ということ。
どういうことなんじゃ。ということで、わかりやすいように、他のボディカラーに対して同じ条件で刷ってみます。

先述したように、この版は「黒」部分のみを抽出して製版しているので、オリジナル写真上の「白」に当たる部分は「抜き」になってしまいます。つまりはボディカラーに置き換えられてしまうということです。写真としてはなんとなーく成り立っていますが、やはり違いは生じてしまいます。特にオリーブボディに関してはコントラストが弱くなり濃淡の視認性が悪くなっていますね。
もっとわかりやすくいうと、黒ボディに対しては、ボディカラーと同色になるので、「何が何だか全くわからなくなってしまう。」という状態に陥ってしまいます。
では、白インキに変えて刷ればいいんじゃないかと思いますが、実際にやってみましょう。

ネガフィルムみたいになります。
インキカラーよりボディカラーが濃い場合は色が反転したように見えてしまい、これを意図する場合は除いては、同じ版を使うことができません。でも「1版(=1色)で刷りたいんじゃ!」という人がいると思います。その場合はそもそもデータ上でオリジナル写真を白黒反転させたものを製版し、別ですることで、以下のように刷ることが可能になります。

これは元写真を白黒反転させて「白」に当たる部分を製版(=反転版)し、「白インキ」で黒ボディに刷ったもの。デザイン上の黒に当たる部分は「抜き」にすることで、元写真を再現することが可能になりますね。いわゆるブラックマジックです。
ただ、この場合も「黒ボディにおいてのみ、この状態になる」ということ。

他のカラーで同条件で刷ると、上記のようになります。コチラも「黒版」と同様になんとなーくな雰囲気は出ていますが、よりよく再現するには抜き部分は「黒」(=黒ボディ)である必要があります。
「1色で刷る」をまとめると、手軽にモノクロ印刷は可能ですが、なるべくオリジナル写真を忠実に表現したい。という場合には少し不向きかもしれませんね。単色で刷るメリットとしては、モノクロ写真と言いつつも、青や赤など何色にでもインキの色変えはできるので、多様なカラーを使って色で遊ぶことができます。
モノクロ写真を複数色で表現する
ここまで、どの場合においても「1色」でモノクロを表現してきました。ただ、どれもオリジナルのモノクロ写真の “まんま” とはいかないです。また、ボディカラーが変わることで、写真の表情に差が生じてしまうことは避けられません。
では、どうしようか。
この場合は「SIM COLOR PROCESS(特色分解)」を用います。
わかりやすくいうと、モノクロ写真を複数色に分解して刷ります。冒頭でモノクロ写真は「黒」と「白」で描写されると言いました。が、より正確にいうと、K0%〜K100%の間が無数に存在します。その部分を「黒版」or「白版」のハーフトーンの密度だけでは表現することに限界があります。
なので、モノクロだけど、「黒」「白」「グレー」の3色に分解することで、オリジナルの再現度をより高く仕上げることが可能になります。
また、特色分解を用いることで、どのボディカラーでも同じ “ほぼ” 同じ仕上がりにすることが可能です。なぜかというと、元写真から各色を抽出 / 分解するので、「抜き」になる部分がおおよそ無くなり、ボディカラーの影響を受けにくくなります。
今回の写真を分解してみました。

「白」と「黒」だけでも表現は可能ですが、グレーが入ることでK1%~K99%の部分もより表現できるようになり、仕上がりも良くなります。
刷ってみました。

いい感じですね〜。
グレーという中間色を刷ることで、より繊細な表現ができたと思います。また、ボディカラーの影響も極力少なくオリジナル写真を再現することが可能になります。
また、抜きの部分が無くなることで、プリントの「厚み」を感じれることもメリットの1つと言えると思います。1色で仕上げたものは、わざと悪い言い方をするとチープ感は否めません。インクジェットの単一的で深みがないチープ感とは違うのでこれが正しい表現か微妙ですが、インクの塗布面積が少ないので、シルク特有のドシッとした雰囲気はあまり感じず、少し薄く感じます。(勿論、これはこれで良作も数多く存在するので、好みにはなりますヨ。)
シルクらしい重厚感も漂わせたい
より安定したモノクロ写真を製作したい
なら、特色分解、お勧めです。
それぞれのメリット・デメリット
1色で刷る
メリット
・色数を1〜2版にを抑えることで低コストでモノクロ写真を刷ることが可能。
・洗練されたシンプルな仕上がりになる。
・同じ版で「白」「黒」以外の色に色変えが可能。
デメリット
・「黒版」「白版」どちらを用いた場合でも、再現性には限界がある。
・ボディカラーによって色の見え方が変わってしまう。
・重厚感のあるどっしりとしたプリントにはならない。
多色で刷る
メリット
・色味の仕上がりが、ボディカラーの影響を受けづらい。
・より繊細、かつ重厚感のあるモノクロのシルクスクリーン印刷が可能。
デメリット
・1色で刷るよりコストがかかる。
・色変えができない。
どちらの方法を取ってしても、本当に細かい描写や質感などの「完全な」再現は、ハーフトーンを必要とするシルクスクリーン印刷では不可能です。が、今回紹介した両者ともそれぞれの良さがあり、シルクスクリーン故の奥行きや仕上がりの良さはデザインに深みを与えてくれることは断言できます。
今日はこれぐらいで。
プリントのご依頼や、この印刷方法について気になる方は是非お問い合わせください。
