【印論 #7】ゲスト : ILL DAI(DAP used clothing / DK JEANS)

対談 with ILL DAI 氏(DAP used clothing / DK JEANS)
印刷工場であるwanna studioが〔プリントを頼む側・頼まれる側〕の関係を持つゲストを招いて、印刷や服飾・その背景にあるカルチャーについて語る対談企画「印論」。第七回は「DAP used clothing」店長 / 「DK JEANS」ディレクターの ILL DAI 氏がゲスト。アメ村に長年鎮座するショップを取り巻くストリートシーンと、敬愛するHIP HOPという音楽、それに絡む服作りについて対談させていただきました。

コージ : 今日は喋りながら、質問しながら、お話できればと思っています。まず、自己紹介いいですか?
ILL DAI : ILL DAIです。アメ村のDAPという古着屋で店長をしています。個人的には DJとビートメーカーもしています。DAPは今年で7年目です。元々はアメ村の「トマト」の上に店舗があったんだけど、こっちに来てからは丸4年ぐらいかな。
コージ : ということは丸7年アメ村を見続けているってことですね。移転先のここはアメ村のど中心ですよね。三角公園が目の鼻の先で。オープン当時からショップオリジナルのTシャツを作ることで、僕もwanna studioとして仕事をさせてもらってますね。いやぁ、早いです。
ILL DAI : そうそう。店の看板もシルクスクリーンで刷ってもらって、オープンの時にも作ってもらったTシャツ着てたもん。これとか覚えてる?外の飾ってるTシャツ。
コージ : 店のロゴTですよね。(Tシャツを見て)うお、これやばいっすね。ほんとのDAP 1枚目ですか、年季の入り方が凄すぎる。
ILL DAI : 前の店の時から、ウチは路面店じゃ無いから、店の窓に外から見えるようにずっと吊ってたんよね。そしたら日にずっと当たってめちゃくちゃ黄ばんだ。しかも、着てもないし洗ってもないのに何故か破れてる。オープン当初からずっと店に飾ってて。10人ぐらいからほしいと言われてるんだけど、これはもはや歴史がありすぎて売れない(笑)。

コージ : DAPの歴史をこの一枚に濃縮したような仕上がりになってますね。これは写真で伝わらないかもしれないです。・・・となると思い入れのあるTシャツはこの辺りですか?
ILL DAI : これもだけど、アーチロゴのデザインにも思い入れがあるね。これはやっぱ、コロナの時緊急事態宣言の時。「うちの店が潰れる!買ってくれー!」ってクラウドファンディングみたいにInstagramのストーリーに書いてアップしたんよね。それを見てお客さんがみんな買ってくれて、それを皆がSNSにあげてくれたおかげで少し店の認知も広まって。あの時期2ヶ月ぐらいはそれだけで売り上げ立ってたぐらいで、なんとか凌のげたのかもしれない。だからお客さんは勿論だけど、このデザインにも助けてもらったぐらい感謝してる。
コージ : あの当時は服屋さんはどこも苦労されていましたもんね。僕自身もDAPではこのデザインを一番刷らせてもらってると思います。そういう初期の苦労された時代を経て、今の店があると思います。ただ丸7年、DAPという店の方向性については、一貫してブレを感じないです。ここまで芯の強い店って指折りで数えれるぐらいだと思っていて。そもそものILL DAIさんのルーツはどこにあるんでしょうか?
ILL DAI : 高校2年生の時やね、1996年にDJを始めて。それまではヒップホップのヒの文字もなかったんやけど、深夜にみたテレビでそれこそHIPHOPが流れていて、なんだこれって。次の日にはターンテーブル買ってもらったのかな。そこからずっと「ダボダボ」。やっぱりその当時のシーンのスタイルがずっと好きで。DJでもビートメイクでも、ブーンパップしか作らない。自分のスタイルは何かを狙っている訳でもなく、ただブーンパップが好きで、時が止まっているだけ。当時の好きだったアーティストとか先輩たちのコスプレを続けてる感じかな。だからDAPっていう店がブレないのは、オレの好きなものが変わらないから、店も自然とそうなってるんだと思う。
コージ : ILL DAIさん自身がHIPHOPという括りの中でも、その時代に傾倒されてるんですね。だから、DAPにおいているアイテムは特定のブランドに寄ったりしていないし、当時の所謂「イナたい」っていうところの表現からブレてないですよね。どこの・なんのブランドなのか詳しくわからないけど、当時街であんな格好をしていた人のイメージから抜き取って、セレクトされているのかなと。人気のブランドを置けば当然売れますけど、そうじゃない何気ないアイテムって、カルチャーを売る店でしか売れないですし。ILL DAIさんはそこの背景に厚みがあるからこそ、この店が成り立つように思えます。
ILL DAI : オレが好きなものが、その「イナたい」ものなんだけど、そうなると90年代〜00年代のものが中心になってくるね。それがDAPのコンセプトにもなってる。

コージ : HIPHOPっていうカルチャーを30年間、外からと中からと見てきて、それに絡むシーンをどう感じていますか?
ILL DAI : もう目まぐるしすぎて・・って感じ。Instagramで見るラッパー達は、ウチに置いてるようなものではなくて、クロムハーツとかヴィトンなんか身につけて、もはや手の届かないような感じになってる。オレが好きな時代ゴリゴリの人も昔と比べて減ってきてると思う。逆にナチュラルなプレイヤーの人も出てきて。そういう、HIPHOPの中でも多様性が出てきてるのは、オレはいいと思う。音楽のシーン自体に盛り上がりも感じれるし。今後、何かのスタイルが突出して、このシーンにあるタイプしかいなくなるっていうことはないと思うけど、その比率の中に「ダボダボ」も残り続けると思う。昔雑誌でしか見てなかったゴリゴリの人が、まだ同じ装いをしてるとちょっと安心するね。
コージ : 古着屋のDAPにおけるオリジナルアイテムやディレクションされているDK JEANSの立ち位置はどのようなものですか?
ILL DAI : 古着仕入れだと探しても探しても見つからないモノを作るっていうのもあるんだけど、この店をレペゼンしてもらえるモノでもあるかな。ウチの服を着てくれてるってことは、その人にとっても自分がB-BOYであるっていう”示し”にもなってほしいと思ってる。
コージ : なるほど。それは他の店では簡単にできないことですよね。例えば、wanna studioの服を好んで着てもらっていても、その人はウチのことを好きではいてくれてると思いますけど、全員が「”シルクスクリーン”が好きだ!」っていう想いとは直結しないですし。ただカルチャー要素の強いこのお店だから、お客さん自身の自己表現の意味合いでもDAPの服を着たいっていう風な形になるんですね。
ILL DAI : そうだね、名刺の肩書き代わりにもなるかも。オレのよく行くクラブとかバーとかは、着てくれている奴がめっちゃいる。ちゃんと全員がわかりやすくB-BOYだしね。実際にこうやって続けていたら、いつの間にか巷のHIPHOPヘッズから、プレイヤー側になってる子たちもめちゃくちゃ増えてるね。オレよりウマなってるやんって(笑)。金なくても服買いに来てくれた子が、気づいたら服を買いに来なくなって。聞いたら「DJやってるんですよ」って。それからスキル上げてまた来てくれるようになって。普段はレコードばっかり買ってるけど、新しいアイテムを出したらそれは買いに来てくれる。店の服を着てプレイしてくれてたりすると嬉しいし、ウチも”ヒップホップ”やと思ってくれてるなーって。服だけじゃなくて、この店をきっかけとして音楽に没入してくれたら、このお店をやっててよかったなーって思う。お客さんもちゃんと”ヒップホップ”をやってくれてるなーって。
コージ : 服屋ではあるけど、それを売る人・買う人、所謂”服”だけの繋がりではなくて、”音楽”が間に入って、コミュニケーションが生まれてるんですね。カルチャーを売るお店としては理想系かもしれないです。
ILL DAI : もう47歳で、ずっと貫いてるってめっちゃ言われるけど、なんも考えて無いだけかも。
コージ : ILL DAIさんからすれば、このシーンに携わるのは、毎日白米食うぐらい自然なこと。人から「毎日白飯食っててすごいっすね!」って言われてるような。白飯は毎日食うでしょってぐらい(笑)。
ILL DAI : ハハハ(笑)。そうやねー。

コージ : DAPと言えば、オーバーサイズ。最初期から X LARGE以下のサイズは作られて無いですよね。一番小さいサイズが 2X LARGE。すごい。これでやり続けて入れるって、ILL DAIさん自身と、お店の客層がずっと変わってない証明だと思うし、側から見れば、相当攻めの姿勢に見えます。僕たちも、DAPの商品を刷るときは毎回「デケーな」って言ってます。そういった意味では、ILL DAIさんのモノづくりに関しても一貫性が伺えます。服づくりの上で意識されていることはありますか?
ILL DAI : シルエットかな。着た時のB-BOY感。これは一番大事にしてる。まぁ強いていうなら着やすさもあったりするかな。Tシャツ1つでも、王道のPRO CLUBだと形はいいんだけど、ちょっと硬いんよね。動きやすさでいったら、今ウチで作るTシャツの方がそこは気に入ってるし、オレがディレクションしているブランドの「DK JEANS」のオリジナルデニムも、ちゃんと地元でもある岡山産。オンスを低くしたり、でっけーのに裾をズリにくいようなテーパード感も含めて。単にダボタボしたシルエットだけじゃなくて、動きやすさも重視してるんよね。
コージ : 2000年代のプリントモノでいうと、かなりぶっ飛んだものが多いんですよね。このお店にもある古着でもありますが。当時はプリント過渡期でもあって、ありとあらゆる手法を、ふんだんに使ってるものが多いです。今だったらココだけで結構なコストかかるけど、それが何箇所も施されてるみたいな。ほんでこのプリント手法イカれてるわ。って。
ILL DAI : でもウチは派手じゃなくてシンプルなものが多いかな。エンタメ感のあるものよりかは、ベーシックでデイリーユースできるものを作りたいって思ってるから。当時のシーンで着てた人たちの服を思い出しながら、今は無いものを作ってる。
コージ : プリントモノで言えば、これまで全部シルクスクリーンだけだと思いますが、理由はありますか?
ILL DAI : 頭に描いたやつを、wanna studio でやってくれるシルクスクリーンで実現できてるからかな。シルクプリントだと、新品の状態よりも、着倒した時のプリントの具合が好きなのもあるかも。パキッとした感じより、少しヨレた時、色褪せてきた時ぐらいからが本番だね。最近は古着は全然着てない、自社製品ばっかり(笑)。古着は出会いだから、別枠やね。
コージ : DAPのデザインはベタ版で、わかりやすく経年変化を感じれますよね。
ILL DAI : プリントが割れるレベルまで行くのはなかなか難しい!相当着ないとだから。今日の服も着まくってるけど、まだ割れてはない。けどこの割れる手前ぐらいが一番好きかも。けどやっぱりデザイン云々よりかはやっぱりシルエットかな。なんだったら無地が最強ではあるんだけど、その中にレペゼンできるような何があるかっていうプラスアルファ的なもの。
コージ : 確かにDAP的なHIPHOPを感じるなら、後ろ姿で十分ですもんね。あくまで、DAPのデザインはお店をレペゼンするのと、自己表現のためですか。表面だけじゃ語れないオリジナルの面白さですね。
コージ : 今後の展望はありますか?
ILL DAI : HIPHOPを聞く奴が増えること。勝手に聞いてくれてるんだけど、ドップリ浸かってほしい。これから新しいことはできなくて、もう既に出尽くしてる。基本既にあるものに何かを加えるぐらい。もう無いんよね。でも、そのグルグル回るサイクルの中に、DAPがあってくれたらいいかなって思う。
コージ : ありがとうございました。

DAP used clothing
2019年に大阪アメリカ村でオープン。90s〜00s中心のオーバーサイズアイテムにフォーカスしたユーズドショップ。オリジナルアイテムやデニムブランド「DK JEANS」も展開。大阪を中心に ラッパー / DJ / ダンサーなどから熱い支持を受けている。
URL : https://dapused.thebase.in/
instagram : @dap_usedclothing
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SHOP INFO
DAP Used clothing
〒542-0086 大阪府大阪市中央区西心斎橋2丁目10-29 3F
営業時間 : 1PM – 8PM
定休日 : 水曜日
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