「あの風景」を刷る / CMYK 四色分解
今回ご紹介するのは〈CMYK / 4色分解プリント〉です。
少し文字数が多いのはご愛嬌ください。
そもそも4色分解ってなに?
デザイン(=色)を表現する方法としてCMYKというものがあります。インクの3原色 + ブラックのことですね。〈シアン【C】 マゼンタ【M】イエロー【Y】ブラック【K = Key Plate】〉で構成されるもの。4食それぞれの色の混ざり具合で、その4色には”ない”色も表現するという方法で、下の画像のようなものを見たことはあると思います。(詳しくはgoogleで調べてもらった方が早いですのでそれ以上は割愛します。)
シルクスクリーン印刷はデザインを色ごとにデータを分解→版を色ごとに焼き付け、現像し製版→1色(版)ずつプリントしていくという印刷方法。多色デザインになるほど、その工程は多くなります。普通はそれぞれの色をデータに近いPANTONEカラーに調色した特色インクで刷っていきます。
4色分解も工程は同じもので、デザインをCMYKの4色に分解し、それぞれ網点(ハーフトーン)にしたものを版に現像し製版。そして1色ずつ、専用のプロセスカラーインクで印刷するという順序です。
「どういうこと?」と思う人もいますが、続けて読んでもらえたら視覚的にも少しは理解してもらえるかと思うのでもう少し我慢してください。笑
今回用意したデザインはこちら。”あの”風景です。
「タターンタータターン」という起動音と共に浮かび上がってくるのは懐かしい光景。調べてみるとこの1枚は「Bliss」という名前で、〈National Geographic〉フォトグラファーのCharles O’Rear氏によって撮影された写真とのこと。もはやノスタルジックな気持ちにさせてくれる1枚です。今回はこの写真を使ったデザインをCMYKプリントしていきましょう。
まずはこのデザインをデータ上で4色に分解します。印刷に適した設定が重要になってくるので、この分解作業は弊社にて行います。ご入稿時は分解する必要はありませんので、ご安心ください。
こういった具合です。どんなデザインでも、何色あってもこのように4色に分けてしまいます。が、CMYKには表現できない色というものが存在します。パステルカラー / 蛍光カラー / メタリックカラーなどです。こういった色が含まれるデザインの場合は、近似したカラーにCMYKで変換されてしまいます。と、データ作成時にはカラーモードをCMYKにしてください。RGBで入稿してしまうと変換時に色が変わることがあります。
また、白色もCMYKでは表現できないカラーなのですが、そもそもシルクスクリーンでフルカラー印刷をするときは、下地が白色であることが大前提です。なので表現できない白色は、透過した地の色を用いて表現することになります。ホワイトボディであれば、必要jないのですが、カラーボディに刷るときは白引き(アンダーホワイト )用にプラス1版必要になります。
わかりやすくアップしていますが、各色のハーフトーンを合わせたらこういうイメージです。
とりあえず理論的なところは飽きてきたので、実際に刷ってみましょう。
実際に4色分解を刷ってみる
今回は白引き(アンダーホワイト)ありバージョンも刷るので合計5版を用意。それぞれの版を印刷機にセットしていきます。1つ1つのハーフトーンの掛け合わせで色を表現するので、4色分解はコンマミリ単位での位置合わせが非常に重要。これがズレてくると表現が崩れてしまったうまく色が表現できません。
まずは白引きのアンダーホワイト を印刷。
白引きは基本的に表面をマットにする必要があるので重ね刷りを施します。なので必然的にプリント自体に厚みがある仕上がりになります。
次にイエロー【Y】をプリント。
グリーンはシアン【C】とイエロー【Y】の掛け合わせで大凡できるカラー。草原の部分には緑が多く含まれたデザインなので、イエローの割合が多く、青い空の部分には殆どイエローがありませんね。
そしてマゼンタ【M】をプリント。
全体的なシルエットは出てしましたが、またデザインとは程遠い色味。あとはシアン【C】とブラック【K】を残すのみ。
そして、シアン【C】をプリント。
・・・一気に近づきます。シアン【C】を刷るタイミングでほとんどのデザインでは、全体像が一気に仕上がります。僕も初めて4色分解を刷ったときはビツクリしたものです。「よくわかんねーけどすげー!できてる!」って。グリーンのインクは使ってないんですが、3原色でグリーンに”みせてる”っていう形ですね。最初に刷った黄色がかなり効いてきている形です。空の細かな色味もだいぶ表現できています。
最後にブラック【K】をプリント。
そこまで大きな変化はありませんが、締まったような印象に。というのもそもそもCMYの3色では純粋な黒は表現できないので、再度にKey plateであるブラックで、綺麗に引き締めてくれる、という形なのです。modone と wanna studioのアイコン部分は予めブラックの版にしか現像されないように版下データを作成しています。通常は真っ黒の部分にもイエローやシアン・マゼンタなどが入ってきてしまいます。これが印刷結果を悪くする場合もありますので、データ作成には経験とセンスも必要だったりします。
仕上がりをみる
よいですね〜〜。草原の草の柔らかさや空のグラデーションも表現できています。絶妙な雲の表現もバッチリ。メリハリはあるのですが、どことなーく優しい仕上がりです。尚且つ、下地を引くことで発色もしっかりと出ています。
上 : アンダーホワイトありver.
下 : アンダーホワイトなしver.
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↑ 白引き(アンダーホワイト )アリ
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↑ 白引き(アンダーホワイト )ナシ
今回は比較用で白引きのアリとナシで2種類刷りました。デザイン端の四角形の輪郭 / エッジに違いが出てますね。また、写真ではすこーし伝わりにくいのですが、アンダーホワイトを刷った方が1つ1つの点がたったようなシャープな印象。ナシの方は1つ1つの網点が生地に馴染んでいるため少し柔らかな風合いになります。アンダーホワイトの有無で風合いも異なってくるので面白い違いです。どちらが良いかは好みです。
ハイメッシュ版を使う際に生地の中にまで完全にインクが入り込みにくい影響で、ナシの方は光に透かすと透け感があります。どことなく古着らしい。でもインクジェットの安っぽさとは違う良いフェード感があって味があります。
〈良いこと〉と〈悪い?こと〉
CMYK印刷は今となってはフルカラー印刷で主流となったインクジェットや転写系プリントの影に隠れつつあります。シルク工場でもこの手法はやめてしまったところも多いです。ただ、その仕上がりの風合いや温もりというのは、これに変え難いものがあります。ロマンといえばロマンなのですが、その手法ゆえの面白さっていうのはありますし、Tシャツとしての深みがでるのかなーと。僕がシルク屋だからというのはナシにしてもこの感じの方が好きです。
ただ、もちろんデメリットもあるのです。CMYK印刷は、全てハーフトーンで表現する手法なので細かさには限度もあります。デザインごとにインク濃度を調色し、ベストな比率を割り出してはおりますが、各色の濃度やほんとに絶妙なスキージング圧や版の状態によって、落ちるインクの量や濃さにブレがでます。それゆえに少し仕上がりの色にも影響し、個体差が発生します。「この色味・この陰影・この細かな表現は絶対に崩せない!」というのであれば不向きかもしれません。なので目的によっては他の手法を用いた方がよいパターンもあります。
ただ・・!弊社では、版の状態を常にベストな状態をキープするために数枚刷るごとに、版の清掃しリセットしながら量産します。これやってる業者さんは今あるのか?・・・というほどの手間のかかる工程です。そうでもしないと仕上がりがブレブレになってしまうリスクがあります。機械刷りとは違って手刷りでは工場泣かせで面倒だから、どこの工場さんもやめてしまったのです。実際に通常のベタ版プリントの工程と比べて倍以上の時間と人員が必要となります。手間をかけてあげることで個体差を最低限でないよう・いい仕上がりになるようにしております。
今回はシルクスクリーンでもフルカラーが刷れます。というご紹介でした。実際に来てもらえれば、さまざまなサンプルもお見せできるので、興味のある方はお気軽にお問い合わせ / ご相談ください。